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事実を書いて真実を導く

信号機の色は、青・黃・赤である。

 

この一文を論文に書くとしたら、どういうことに注意すべきなのでしょうか?

「なぜ注意が必要なの?」と思った方も多いと思います。

この文にはいくつか気をつけるポイントがあります。

 

A.複数の意味に取れるような曖昧な表現は避ける

例文を読むと、信号のランプ(今はLEDが主流とか…)の色が青・黄・赤であると言っているように解釈しますよね?

でも、よく読むと信号ではなく信号機なんです。「機」と付くということは、通常、信号灯を備える設備そのものを指しませんか?

そう、オフホワイトだったりブラウンだったり。信号灯の色ではないんですよね。

細かいことですが、意味合いが変わってくると多くの人に誤解を与えかねませんので、修正すべき箇所となります。

 

 

B.事実であると証明できないことを断言してはならない

今回の話で大事なのは、このBです。

信号(機)の色は、本当に青・黃・赤なのか?

「何を言ってるの、当たり前じゃない」と思ってしまうかもしれませんが、そんな方に次の質問を。

  1. 歩行者信号の信号灯の色は、3色ですか?
  2. 信号機は、自動車が対象のものだけですか?
  3. 地域を限定していないということは、全世界で同じことが言えると断言できるのですか?
  4. 青と言いますが、緑に見えませんか?

1~3ともに、NOですよね。また4については、「そういえば…」となりませんか?

さらに言えば、自動車が対象の信号でも他に点滅信号もあります。

路面電車が走っている地域であれば、路面電車専用の信号機もありますよね。

ヨーロッパやアフリカの、今まで日本のメディアが注目してこなかった国々にあっても同じく青・黃・赤なのか、それは調べないとわかりませんよね。

豆知識として、信号の色はCIE(国際照明委員会)にて赤・緑・黄・白・青の5色と提案され、ISO(国際標準化機構)にて国際基準として規格化されているそうです。

信号灯の青は緑に見えるのになぜ青と呼ぶのか…これも、調べれば文献が存在します。

 

以上から、例文はかなり乱暴な記述である…となります。

何気なく当たり前のことを書いたつもりでも、「それは本当にそうなの?」という視点で読み返す必要があります。

そして、それが過去の論文等で示されていることが確認できなければ、事実を書いたことにはなりません。

 

実際に今、例文のような文章の裏付けをとっているところですが、たった20文字程度の1文のために、文献を探したりするのに要した時間は賞味4時間ほどです。もちろん、前後の文章との兼ね合いもあって修正込みの時間ですが、それくらいかかりました。

 

論文は、自身の研究成果を世に公表するためのもの。

研究の結果をありのままに書くこと、それが「事実を書く」ということですね。これは、論文中の方法・結果で記述します。

その後、自身の方法・結果(事実)と、他者が書いた過去の論文や資料から得られる方法・結果(事実)や考察・結論とを照らし合わせつつ、考察して真実に近づけ、導く。

あくまで事実がベースとなります。希望的観測や願望がベースの「理想」は書くべきではありません。それを書いてしまうと、感想文…ややもすると小説になってしまいます。

 

また、事実は1つの事柄(真実)に複数存在しえます。

例えば、あなたが自宅について次のように説明したとします。

  1. 部屋にテレビはあるが、便器はない
  2. 部屋に便器はあるが、テレビはない

聞き手が同一の部屋の説明だと思ってしまうと矛盾した内容ですが、1の部屋が居間、2の部屋がトイレと思えば、どちらも事実です。

そして、それぞれが1つの家の中の別々の部屋であるという「真実」に繋がります。

さらに他の部屋や外壁の色などを加えていけば、より真実がくっきりと浮かび上がりますよね。

 

私自身、考察に「理想」が混ざってしまうことがまだありますが、特に気をつけている項目であります。

熟練の研究者や数多の論文を執筆している方々は、恐らくこういった違いもより明確に説明できるのだと思いますが、私にはこんな内容が精一杯です。


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