実践・要旨の作成

<追記> 2019年3月19日

 

幾つかのページに分けて書いていましたが、改めて集約してみました。

「構造化抄録」の考え方に従って、第53回 日本薬剤師会学術大会(2019,山口)のレギュレーションを確認しつつ、ポイントを挙げてみようと思います。

 

上記大会ホームページの「一般演題募集」ページ、「登録規定」を確認すると次のように書かれています。

(携帯端末でご覧の方は、画面回転のロックを解除してヨコにすると見やすくなります)

 

演題名 全角60文字以内
抄録本文 全角1,000文字以内
発表者・所属 共同発表者は最大10名まで、発表者所属は最大11施設まで。項目立ては、原則として【目的】【方法】【結果】【考察】【キーワード】としてください。抄録の内容を含むキーワードを5単語以内で入れてください。
留意事項 全角文字は1文字として、半角文字は1/2文字として数えます。アルファベットの直接入力は半角英数ですので、1/2文字となります。 <SUP>などのタグは文字数には換算しません。 半角カタカナや丸数字、ローマ数字、特殊文字等の機種依存文字は使用できません。 画像及び写真の添付はできません。 UMIN登録画面に記載された注意事項を必ずお読みください。
  • 登録内容と当日の発表内容に相違が無いようにご注意ください。
    例えば、共同発表者の登録漏れや、発表内容に変更があった場合の修正忘れなどが無いようにお願いします。

 <引用>第53回 日本薬剤師会学術大会ホームページ

これを参考に構造化抄録とするには、

【目的】

【方法】

【結果】

【考察】

【キーワード】

の5項目で構成する必要があります。「原則」として表現されているので、できる限り守りましょう。

ルールがあってこそ、価値が生まれます。ルールを守ってこそ、価値が上がります。

 

では、最初に「決まりごと」からお伝えしたいと思います。

例えば、私が把握している決まり事として「数値」に関するものがあります。

YAKUGAKU ZASSHIという学術誌はご存知でしょうか。日本の薬学系学術誌の中で歴史も長く、外国においても検索対象となるような権威の有る学術誌と聞いています。

最初に論文を3つ以上読んだ皆さんなら既にイメージが有るはずですが、私が確認した、このYAKUGAKU ZASSHIに掲載されていた論文も同じ表記方法でした。

 

件数と%の両方を記載する場合、どちらが先だと思いますか?

 

私が見た中ではほとんどが「件数(%)」という書き方でした。

具体的には次のような記載になります。 

「アンケートの回答者は、薬局勤務薬剤師が72名(61.5 %)、病院・診療所勤務薬剤師が42名(35.9 %)、その他3名(2.6 %)であった」

 

対して、「みんなの医療統計 12日間で基礎理論とEZRを完全マスター! (新谷歩(著)、KS医学・薬学専門書)」においては、母集団に対する割合が大事とのことで「%(件数)」という提案もありました。

どの標記が相応しいとされ今後のスタンダードになっていくのか、気になるところです。我々は、まずは読み手が分かりやすい表記を目指す方が無難かもしれません。

 

また、論文を執筆する時に教えて貰ったのですが、数字の前後に半角スペース(ひらがな入力モードで[Shift]+[Space]、あるいは半角モードで[Space])を入れる事もあります。これは、数値の視認性を高めるための作法だと考えます。ただし、調べてみますと「決まりごと」には該当しないようです。

対して、数字と記号の間は半角スペースが必要になるそうで、これは世界共通の「決まりごと」のようです。

上記の例文をコピペして、Microsoft wordなどに貼り付けてみてください。さらに、wordの機能である「編集記号の表示」を有効にすれば、数字と%(記号)の間に半角スペースが設けられていることがわかると思います。

ただし、数字と直結すべき記号もあるらしく(角度を示す「°」など)、詳細はインターネットで検索してください。

 

では各論へ。

【目的】ですが、これは既にプロトコル(プロトコール:研究計画書)や倫理審査申請書にも記載しているはずです。後で削っていくとは言え、ここで500文字など消費しては他が書けなくなります。

 より完結に書かれている方をコピペしてみましょう。一通り記載が終わってから、改めて集約作業が必要になると思います。

因みにこれは【目的】だけに留まりませんが、他の人の要旨を参考のため見てみたいと思った場合は、日本薬剤師会が下記のページを提供してくださってますのでご利用ください。ただし、利用する場合は複数の要旨を確認してください。ピンポイントで「好ましくない書き方の要旨」に当たる可能性もありますから…。

発表者名で検索する場合は、姓と名の間にスペースを入れるか入れないかで検索結果が変わります。

 

日本薬剤師会 学術大会抄録公開ページ

 

 

次に【方法】です。これも既にプロトコルや倫理審査申請書に記載されているはずです。端的に表現しないと他の項目が書けなくなるのは【目的】と同じです。

アンケート調査であれば、いつ、誰に、どのような方法で、どのような内容(文脈から【目的】の内容を問う事が明確に分かれば省略可)のアンケートを実施したのかを書くことになります。

また、通常はこの項目に倫理審査を受け承認を得た旨を記載します。倫理審査で承認を得ている場合は、必ず明記しましょう。恐らくですが、多くの倫理審査会からの承認通知には、「承認番号」みたいなものが書かれていると思います。これを要旨、そして実際に発表する際のポスターやスライドに明記するのです。

具体的な文例は次のようになると思います(下記は2018年の日本薬剤師会学術大会にエントリーした時の私の要旨から抜粋しました)。 これを、構造化抄録中の【方法】の段落の最後に記載しました。

 

※ 「構造化抄録」については、本サイトの[研究の始め方]→[ポスター・口頭発表へ]→[構造化が大事]にて触れています

なお、本研究は長崎県薬剤師会倫理審査委員会の承認を得て実施した(長倫薬29-6) 。

 

その次は【結果】ですね。続く【考察】には、この結果から見える内容を記載すべきです。当たり前ですよね、どういうことなのか「???」ですよね。

 詳細を書きますと、「要旨とは?」のページで記載していますが、論文になる内容の一部であるポスター・口頭発表内容を要約したものが学会発表時にエントリーする「要旨」です。論文まで見据えている場合、言いたいことが沢山あって然るべきなのですが、それが災いして「『要旨の結果』から見えない考察」を書いてしまう場合があります。私は度々、この件で指摘を頂いてました。

考察で多くの事を書いて、結果を一部省略してスペースを作ろうとすると、こういう顛末になります。あくまで記載されている結果から、考察を導くべきです。

ですので、明示する結果を幾つかのパターンに分け、それぞれに考察を用意して見比べてみるのも良いかもしれませんね。

 

そして実際の書き方ですが、グラフを含む図表は使えませんので、全て文字で表現する必要があります。

また、要旨の中で最も数字を書くことが多い項目になりますので、冒頭の数字と記号の間のスペースなども気をつけましょう(スペースの挿入は、全体を書き終えてからでも可)。

 

注意すべきは、「考察もどき」や「感想」にならないことだと思います。

例えば、文末が「多かった」「少なかった」という程度の表現になると、それが本当に数値に裏付けられた表現なのか、「思ったよりも多かった」など個人の感想なのか、曖昧になりますよね?

実際に比較対象が存在して、比較した結果で大小や多少について記載するのであれば…とも思いますが、比較できる(数値など絶対的な指標が存在する)のであれば、数値を用いたほうが無難だと思います。

  1. Aは52%、Bは48%で、AがBより多かった
  2. Aは52%、Bは48%であった。

因みに上記の例であれば、私は2で十分だと考えます。読めば分かる内容を強調して再度表現し、文字数を消費するのは勿体無いですよね。

 

 

いよいよ【考察】です。ここがまた難しいですね。まずは【結果】同様、「感想」にならないことが大事だと思います。ただし、ここで言う「感想」は「結果に基づかない個人の感想」であって、結果に基づく「程度の表現」は問題ないと考えます。

  1. 今回の体験をして良かったと回答した者は、否定的な回答をした者より多かった。
  2. 今回の体験をして、とても良かった。またやりたいと思う。

1はデータに基づく「程度の表現」です。2は個人の「感想」そのものですよね。

「考察」という単語を英訳するとdiscussion(議論)である…というホームページも多々存在します(賛否あると思いますが)。得られたデータを元に議論を重ねるべき項目に、個人の感想は馴染まないわけです。

 

そして、結果に基づくものであることは前述の通りですが、【目的】で何を明らかにしようとしたのかを再確認し、それが明らかになったかどうかを書く場所だと思っています。また、それを元にどのように応用すれば医療に貢献できるのか、今回の研究の反省点・限界などを総括して後に続く研究への足がかりを残す、業界や閲覧者に提案するなど…「その先」を示して欲しいと考えています。

 

 

最後に【キーワード】です。

白状しますが、私はここをいつも軽んじておりました。でも大きな間違いなんですね。

論文を検索する時、例えばGoogle検索を使うとして、Googleさんはいきなり要旨や論文の全文を検索するでしょうか?

私が調べた範囲では、どうやら違うようです。キーワードを設定した者によって一度フィルターをかけているのと同じですので、そこから導き出された単語というのは非常に重要な存在のようです。

 

そして逆に考えた時、「この単語で検索したら、自分の要旨を上位に表示して欲しい」という単語こそが大事なキーワードなのですよね。

また、ポイントとして付け加えるなら

  • タイトルに含まれる単語は避ける
  • 要旨本文に存在する単語を選ぶ

でしょうか。

タイトルはキーワード同様に検索エンジンで真っ先に調べられる場所のはずなので、ここで使っている単語をキーワードにすると勿体無い…という感じですね。

そして、要旨本文に無い単語を設定してしまうこともあります。例えば、言い回しを変えた単語とか、もともと書いていたけど削除してエントリー時点では表記されていない単語とか。気をつけましょう。

 

 

実際に書いてみて、いかがですか?

文字数をオーバーした人、オーバーしなかった人、それぞれだと思います。

オーバーすればエントリー時に弾かれてしまいますが、逆に文字数が少なすぎると見た人に中身が薄いように捉えられるし、要旨集に掲載された時に何だか寂しい状態になってしまいます。

個人的には、800~950文字程度に収まると充実した内容になる気がしています。

 

オーバーした人は、

  • 結果と考察の組み合わせを減らす
  • 文章・単語を別の表現に変えてみる

を駆使して、何とか規定文字数に収まるよう頑張ってください。

「結果の一部を減らす」だけ実行すると、【結果】の項目で書いたような齟齬が発生してしまうので、要注意です。

 

また全体を見渡すとき、「構造化が大事」ページでも書きましたが、

  • 口語表現になっていないか
  • 調査対象に敬語等使っていないか

なども一緒に確認しましょう。

 

ここまで出来たら、要旨は完成と考えて良いのではないでしょうか。

大変お疲れ様でした。


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